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第五章
十一時前、和也は図書館を出た。B棟は玄関から入るとすぐに薄暗くて、和也は苦手だった。この実験棟にはサルの他に保健所からくる犬もいるらしいが、ここで動物の鳴き声は聞いたことがない。
五階建ての屋上からの景色を見ていると、後ろの扉が開いて美音が近づいてきた。
「ごめんね。遅れて」
美音が和也の隣へやってきて、軽く互いの腕が触れ合う位置に立った。
和也は、美音もいつかはパニックウィルスが発症するのだと思った。このまま治療薬が発明されない限り、二人の未来はなっかた。
「ねえ・・・和也の妹さん鬼子だったよね」
「そうだよ」
「鬼子がパニックウィルスのに罹患しないのは、ウイルスと同じ遺伝子情報を染色体の中に持っているからだって。アメリカの研究チームの発表があったわ」
「それいつ?俺もネットでパニックウィルスについて調べていたのに」
「ついさっきよ」
二人の間に沈黙が続いた。
和也の脳裏には、ほぼの人間が死に絶えた世界で鬼子達が構成している社会があった。
「ねえ」
美音が呟くように言った。
「パニックウィルスは、人間が造りだした生物兵器だっていう噂、最近はもしかしたらって思うのよ」
和也は苦笑した。
「まさか。もしどこかの国がそんなもの造り出していたら、もっと早くに機密情報として、洩れていた筈じゃないかな」
「でも・・・」
自嘲するように美音は続けた。
「もしそれが真相だったら、人間は自分達が造り出したウィルスによって滅びるのね。人間に代わってこの地球を支配するのは、ウィルスが造り出した新人類の鬼子達。
『ウィルスが人間の生殖機能を乗っ取り、感覚と思考力を持つに至った』アメリカの研究チームが発表した見出しの文句よ」
思春期を迎えて第二次性徴が始まった子供達の中で、髪や瞳の色が尋常でなく変化することが五年程前から問題になっていた。時期を同じくして、パニックウィルスによって世界は一変した。
「パニックウィルスの潜伏期間は、おそらく十五年から二十年と云われているわ。二十年程前にパニックウィルスに感染してキャリアになった男女から鬼子は誕生したみたいね。鬼子達がウィルスに罹患せずに長生きしたとしても、彼等は生殖機能は持たない。いずれこの地上は、パニック症候群が発症していない二十歳以下の人類と、二十年以上生き延びる鬼子達が構成する社会になるわね」
ーー僕らが死んだ後の世界はどうなっているんだろうね。来世を捏造してでも君に会いたいよ。
和也は髪が触れる程近くに立っている美音の肩に手を廻した。
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